名古屋高等裁判所 昭和34年(う)214号 判決 1959年6月15日
控訴人 被告人 千葉俊男
弁護人 渋谷正俊
検察官 吉安茂雄
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役一年に処する。
原審における未決勾留日数中一五日を右本刑に算入する。
理由
本件控訴の趣意は、弁護人渋谷正俊提出の控訴趣意書に記載するとおりであるから、ここにこれを引用する。
職権を以つて調査してみるのに、原判決は、被告人が昭和三三年八月二六日ころから同年一二月一五日ころにいたる間、前後二四回にわたり原判示岐阜市笹土居町五二番地善行寺本堂地下室において、森百合子他一名所有の着物、生地等見積り価額三十七万九千円相当を窃取した事実を併合罪にあたるものとして処断している。然し、原判決引用の各証拠、特に、被告人の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書及び森百合子の各被害届(同人の盗難被害事実申立書を含む。)、首藤徳三の被害届によれば、被告人は、昭和三〇年七月五日岐阜地方裁判所において詐欺罪により懲役一年八月に処せられ、同三一年一一月岐阜刑務所出所後、養父、実母の居住する原判示岐阜市笹土居町五二番地善行寺において、そこの一室を与えられ、妻子と共に暮していた。ところが、被告人には定職もなく、加えて同三三年春ころ従姉妹から借用していた金員の返済方を強く督促され、金銭に窮した結果、たまたま被告人の居室の隣りの部屋に、原判示森百合子が家屋を新築するため、同人所有の原判示衣類、生地、什器類と、同人がさきに首藤徳三から預つていた原判示麻雀ぱい一組を、被告人の母千葉みさをに保管を託して置いてあつたのに目をつけて、右みさをの保管するこれらの衣類、什器等を盗み出して金に代えようと思いたつた。しかし、一度にこれを盗んではすぐに被告人の所為であることがばれる危険があるので、日をおいて少しずつこれを盗み出すことを計画し、この包括した窃盗の意思に基いて、反覆して原判示のとおり昭和三三年八月二六日ころから同年一二月一五日ころまでの間、前後二四回にわたり、原判決別表記載の窃盗を行つたことが認められるのである。そして、本件のごとく、予め多数回の窃盗を行うべく包括した意思のもとに、その意思の実現として反覆して窃盗を行い、しかも、その窃取により侵害される財物の所持が同一人に属するごとき場合には、窃盗の包括一罪を構成するものと解するのを相当とするから、原判決が右包括一罪に該当する事実を認定せず、本件を併合罪にあたるものとして処断したのは、事実を誤認したものというべく、しかも右の誤認は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決はすでにこの点において破棄を免れない。
よつて、弁護人の論旨に対する判断を省略し、刑訴法三九七条、三八二条により原判決を破棄するが、本件は、原裁判所において取り調べた証拠により直ちに判決することができるものと認められるので、同法四〇〇条但し書に従い、更に判決することとする。
(罪となるべき事実)
被告人は、昭和三三年八月二六日ころから同年一二月一五日ころまでの間、包括した意思のもとに、反覆して、前後二四回にわたり、岐阜市笹土居町五二番地善行寺本堂地下室において、被告人の母千葉みさをの保管にかかる森百合子他一名所有の着物、生地等衣類六九点、膳わん、掛軸等什器三五点、指環、髪道具等身廻り品八点、絨たん四枚、銅板六枚、及び観音像、麻雀ぱい各一点(見積り価格合計三十七万九千円相当)を窃取したものである。
(証拠の標目)
一、被告人の原審公判廷における供述、
一、被告人の司法警察員並びに検察官に対する各供述調書
一、森百合子の各被害届及び盗難被害事実申立書
一、首藤徳三の被害届
なお、被告人は、昭和二七年一〇月一六日岐阜地方裁判所において詐欺、私文書偽造、同行使罪により懲役二年に、同三〇年七月五日同裁判所において詐欺罪により懲役一年八月に各処せられ、当時いずれも、その刑の執行を受けおわつたもので、右の事実は、被告人に対する前科調書により明らかである。
(法令の適用)
法律に照らしてみるのに、被告人の判示各所為は、包括一罪として刑法二三五条にあたるが被告人には前示の前科があるので、同法五六条、五九条、五七条に則り、累犯の加重をし、その刑期範囲内で被告人を懲役一年に処し、同法二一条により原審における未決勾留日数中一五日を右本刑に算入することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長判事 滝川重郎 判事 渡辺門偉男 判事 谷口正孝)